ブラック・ミュージック・リスナー向けシステム
June 2001 By Osamu Sho

■自作 de スピーカ(本編)です。


 はいはい、bmrの荘です。うちの読者以外の方が読まれているかもしれませんので一応説明しておきますと、bmr(ブラック・ミュージック・リヴュー)は、USのヒップホップ/R&Bを中心とした黒人音楽を扱う音楽専門誌です。このページでは、bmrの編集者である私が、引っ越しを機にどうにも納得のいかなくなったスピーカ環境を改善すべく、市販品から離れて組み立て自作に走ったという、まことに個人的な制作記です。

 ご承知のとおり、スピーカ・システムは国内外のオーディオ・メーカーからあまたリリースされています。その中から、ぼくのようなブラック・ミュージック・リスナーが選ぶとなると、実は結構難しいものがあります。というのも、いわゆるオーディオ・ファン向けの雑誌が対象としているリスナーは、クラシック・ファンか、もしくはJポップ・リスナーのようで、クラブ・ミュージックやましてやブラック・ミュージック・ファン向けというわけではないからです。まあ、そんな雑誌事情はさておき、ぼくはここ10年近くはJBLの4312Aという3ウェイ+サブウーファを使ってました。いわゆるモニター系のもので、迫力もそこそこあって楽しめたのですが、昨年引っ越したマンションには大きすぎるため、持ち込むことができません。

 とりあえず、つなぎとしてBOSEの121、という状態がしばらく続いてました。このBOSE121は、リスニングポイントが広く、部屋のどこにいてもそれなりにステレオ感を得られるのが利点ですが、反面、不必要に音が広がりすぎるきらいがあります。また、小型のボディからすれば信じられないくらいの低域があるとはいえ、超低域はどうしても不足します。いまのヒップホップなりR&Bは低域を詰め込んでますから、ここがしっかり聞こえないとちょっと寂しいことになってしまうのです。さらに高域に関してもノビがありません。

 もっとも、121には専用のサブウーファ+トゥイータ・ユニットが用意されていますから、これを足すことでこうした不満はかなり解消されると思われます。しかし、121独特の音の広がり方がしっくりこないというか、ぼくの聴くソースには合っていないこともあり、121とは別のスピーカを探そうという気になったわけです。しかし、なかなかこれだ!というものに巡り会えずにいました。

 そんなとき、とある記事がきっかけでイーディオさんに伺い、ずうずうしくも「ブラック・ミュージック・リスナー向けのスピーカはないか」と相談を持ちかけてみたのです。そのときにお願いした条件は次の通りです。

 とにかく、都心のうさぎ小屋に住む身には、スピーカの置き場所は大問題です。大きくてもよければ満足のいく低音を出せるものがありそうです。しかし、ない。場所がないんです、テレビの脇ぐらいにしか。そうなると、奥行きはわりととれるけれど、横幅は狭くせざるを得ません。で、同時に防磁ということになります。予算については、さきのBOSE121が4万円弱くらいのものなので、それより若干高めでという感じです。

 イーディオさんからの返事は、「5万円以内で自作する。作るのは荘様ご自身です」というなかなか素敵な案があがってきました(笑)。ものを作るのはきらいな質ではないので、ふたつ返事で自作することにしました。さらに相談/試聴を重ねた結果、スピーカ・ユニットはノルウェイのメーカー、セアスの防磁同軸2ウェイT17RE/COAX/TVFになりました。このユニットは、17cmのウーファと25mmのトゥイータが一体になっており、しかもその配置がタイムコヒーレントを実現するような構造になっているのが特徴です(この場合で言うと、ウーファとトゥイータの位相のずれがなく、互いに干渉しないようになっている)。なんてすっかりオーディオ・マニアっぽいことを言ってますが、いくつか試聴させてもらったスピーカの中で、気に入った音だったという単純な理由から選んだだけです。

 ボックス(エンクロージャー)も、試聴時に使われていたものを作ることにしました。もともと、このボックスはイーディオのお客さんでもあるフェイさんという方が作られたFB49「次女板取図」の箱を流用しています。ですので、図面、板取はフェイさんのサイトを参照してください。なお、フェイさんのサイトでは直方体の上に三角の小さいボックスがありますが、これはぼくの場合は不要です。
 では、さっそく手順を追って制作の説明しましょう。



■材料/道具/工具はこれ。





■ボックス製作。


 さあ、まずは大工仕事、ボックス製作です。常日頃から日曜大工に励んでいる人ならいざしらず、bmr読者のみなさんはきっと木工なんて学校の授業くらいしか経験がないかもしれません。しかし、大丈夫。重要なのは材料が正確に切断されているかどうかなわけでして、それはプロのショップに任せてしまえば問題ないからです。ぼくは東急ハンズさんにお願いしましたが、郊外ならDIY系の大型店ならだいたい受け付けてくれるようです。また、円形のカットができないお店もありますので、注意が必要です。
 カットした材料が揃ったら、ボンドで付ける前に仮組みして材料を確認します。間違ってボンド付けしてしまったらやっかいですから、必ず仮組みしましょう。
 ボンドは速乾性を使いました。これならば、待ち時間が少なくなりますから、結果的に作業を短時間で済ませることができます。ボンドは多めに塗って、はみ出した部分をヌレ雑巾で拭き取るようにします。少ないと、木と木の間に隙間が出来てしまいます。また、ハタガネを使って確実に固定することで、隙間のないボックスを作ることができます。ボックスの形に仕上がったら、レコードなど重石がわりになるものを載せて、更に押さえつけるようにして固定します。速乾性ボンドは確かに速く乾きますが、完全に乾くのには案外時間がかかりました。

■ネットワーク製作。


 ボックスを乾燥させている間に、ネットワークを作りました。ネットワークとは、ウーファとトゥイータなど複数のスピーカ・ユニットを使う2ウェイ以上の場合に、パワーアンプからの信号をそれぞれのユニットに合わせた信号へと分岐させる役割をする回路です。コイルやコンデンサー、抵抗によって、ユニットに送る周波数特性を決定します。
 今回のネットワークの回路図は以下のようなものです。これはイーディオさんに教えていただいたものなので、詳しくは語れません(泣)。あしからず。



 市販のスピーカではスピーカ内部に取り付けられているネットワークですが、今回は外付けとしました。これなら、後々イジることもできます。組み立ては、木の板に端子板やスピーカ端子を取り付けたものを使いました。部品が大きく、点数もそう多くありませんから、ハンダ付け自体は簡単です。

 出来上がったネットワークは、プラスティックの箱(本来は文庫本の収納ボックス)に収めました。スピーカ・ボックスから離して、床に直置きすれば、振動の影響を逃れることができます。
 ハンダごてを使ったついでに、スピーカ・ケーブルの末端部分の加工も行います。ケーブルは、アンプからネットワークまでの2ch分と、ネットワークからユニットまでの2way×2ch分.5が必要です。アンプ〜ネットワークのものは、通常のスピーカ・ケーブルと同じで、被覆剥き以外に特別な処理はありません。ネットワーク〜ユニットのものは、ユニット側を圧着端子にしました。圧着端子はその名の通り、圧着ペンチでつなぎとめるものなのですが、これにはかなりの力が要りますので、むしろハンダ付けしてしまった方が確実です。

■スピーカ・ユニットを取り付ける。


 ボックスが完全に乾いたら、いよいよユニットの取り付けです。穴にユニットを入れて、ネジ位置に鉛筆などでしるしを付け、再びユニットを取り去ります。ここで電動ドリルの登場。しるしを付けた部分にネジ穴をあけましょう。次に、先ほど作ったケーブルをバスレフのダクトからボックスに引き込み、スピーカの取り付け穴まで引っ張り出します。ユニットの端子に圧着端子をしっかりと接続し、ユニットを穴に収め、ネジ締めをすれば、ようやく完成です。ちなみに、ドリルはここでしか使いませんので、誰かに借りられるならばわざわざ購入することはないでしょう。







■試聴してみる。


 完成したら、ケーブルの接続を確かめ、ネットワークの回路を再チェックしてから試聴に入ります。いきなり、迫力のない音にビビリます。が、時間追うごとに、どんどん低音が出ていき、まる一日経つと、イーディオさんの試聴スピーカとほとんど同じ音になりました。とにかく、低音がしっかりと出ています。安物サブウーファを使ったもののような、嘘くさい超低音ではなく、自然に低域が延びています。もちろん、バスレフ特有の低域の持ち上がりはあるのですが、安物サブウーファよりは遙かにましでしょう。それでも、バスレフはいやだという人は、ダクトに詰め物をするという手もあります。
 基本的には大いに満足したわけですが、一点だけ、不満も残りました。それは、リスニングポイントが狭いということです。いわゆる二等辺三角形の中ならば問題ありませんが、三角形の外側にずれるといきなり音量が下がります。かなり指向性が強いようです。

 そんなこんなで、なんとか満足できるスピーカを作れました。その後、ウレタンニスで塗装して、いまではすっかりうちにとけ込んでます。12インチやCDを買ってきては、このスピーカでチェックする毎日です。もちろん、ヘッドフォンやら、別のモニター・スピーカやらでも聴いてますが、メイン・スピーカはこの自作と相成りました。

Special thanks to Aedio, Fehi